くそったれのジャクソン

気にするなジョニージョニージョニー、行けよジョニー。

この国じゃ天皇だけがまともにモノを考えてるたったひとりの「人間」だったんだぜ、みたいな話。

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 そういうことを言ってる本があって面白かった。大塚英志さんの『感情天皇論』って本。

感情天皇論 (ちくま新書)

感情天皇論 (ちくま新書)

  • 作者:大塚英志
  • 発売日: 2019/04/05
  • メディア: 新書
 

 先代、明仁天皇の生前退位をネタに、そんな感じの話をしてる。

 

www.youtube.com

象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば:象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば(ビデオ)(平成28年8月8日) - 宮内庁

 

 本日は,社会の高齢化が進む中,天皇もまた高齢となった場合,どのような在り方が望ましいか,天皇という立場上,現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら,私が個人として,これまでに考えて来たことを話したいと思います。

 

「おことば」の初めに、天皇がそう言う。それを見て、著者は言う。

 

(…)ぼくがこのくだりにこそ注目するのは、ここで何より彼が主張しているのは、これから「私の考え」を私は表明する、という彼の意思だからだ。つまり、私はこれから一人の個人として発言する、と言っているのだ。自分の考えを外に向かって発信するのは言うまでもない近代的個人の前提である。彼はそういう「個人」として国民に向けたビデオメッセージのカメラの前に立ったのだ。

 

 そんで、こう言う。

 

 しかし、国民の反応はどうであったか。

 結論から言えば、保守派も国民一般も、事態をあくまで明仁天皇の「私事」として捉えることで一致した。

(…)明仁天皇の意見の表明は多くの国民には「感情」の吐露ととられた。

 

 要するに天皇が「もうしんどいんでリタイアして休みたいっすわ」って言ってる、そう俺たち日本人は天皇の「おことば」を受け取って、そんで「じゃあかわいそうなんで休めや」って感じで生前退位を許した、みたいな流れだぜ、って感じの話なんだと。

 

 要するに天皇はかなりガチで自分のアタマで考えて「俺は天皇を辞めるべきだ」って言ったのに国民は単に「疲れてる天皇マジかわいそう」みたいなレベルで「辞めていいぜ」ってOKしちまった、「感情」だけで判断しちまった、アタマが足りねぇ、アタマがねぇ、天皇しかろくにモノを考えてねぇ、みたいな話なんだと。

 

(Symbol) Emperor thinks thinks thinks thinks…

 じゃあ天皇はどういう理由で天皇を辞めるべきだと思ったのか。なんで自分はもう天皇にふさわしくないと考えたのか。

 

既に80を越え,幸いに健康であるとは申せ,次第に進む身体の衰えを考慮する時,これまでのように,全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが,難しくなるのではないかと案じています。

 

「象徴の務め」、象徴天皇としての務めってのは何だ?

 

私はこれまで天皇の務めとして,何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えて来ましたが,同時に事にあたっては,時として人々の傍らに立ち,その声に耳を傾け,思いに寄り添うことも大切なことと考えて来ました。

 

 国民、お前らのために「祈る」こととお前らの思いに「寄り添う」ことが俺の、いや天皇ってもんの役目なんだぜと。

 

 著者はそれを「感情労働」と表現してる。マックの「スマイル0円」的な。そんで、「スマイル0円」がバイトのにーちゃんねーちゃんには結構、いやかなりしんどくて重労働、自分を切り売りしてる、自分の何かがすり減ってく気がするってのと同じように、天皇にとってもその「感情労働」はきつかった、ブラックバイトだったんだと言う。

 

――で、天皇としては「俺も歳を食ったしこの先この労働は無理だろ、だから辞めるべきだって俺は考えたんだけど、お前はどう思う?」、と。天皇はそう言ってたんだと、著者は論じてる。

 

 要するに天皇としては国民にも天皇の役割ってもんを考えて欲しかったんだと。別に同情してほしかったわけじゃない、「いや俺は天皇の役割は祈りとか寄り添いじゃないと思います」とか「いや天皇の役割はあんたの言う通りだと思うけどあんたはまだやれると思います」とか「俺的にはそもそも天皇制がちょっと要らないんじゃねぇかなと思います」とか、国民のひとりひとりが自分のアタマで考えた自分なりの意見を持って、そのうえで話し合おうぜと、ちゃんと天皇ってモノについてみんなで言い合おうぜと、天皇はそれを望んでたんだと。つまり天皇としては自分が天皇を辞めるのが目的じゃない、なんなら辞めなくたっていい、みんなで自分なりの意見をぶつけ合って、その結果として自分が天皇続行ってことになるならそれでもいい、そう天皇は思ってたんだと。

 

 なのに現実は、国民は誰も「天皇」ってモノについて考えなかった。天皇を、俺を「かわいそう」としか見なかった。そのレベルで処理しやがった。まともにモノを考えなかった。感情だけで生きてやがる。猿並みに。ニホンザル並みに。

 

 そういうわけで天皇は拍子抜け、(´・ω・`)、ガッカリだぜ、みたいな。猿しかいねぇこの国のたったひとりの「人間」、明仁。「人間」として話がしたかった、みんなと「対等」に話したかった天皇。その孤独、みたいな。届かなかった天皇の「思い」、言葉、みたいな。

 

Emotional‼

 読んでてめちゃくちゃエモい「見立て」だと思った。ロンサムジョージ、ひとりぼっちの天皇、みたいな見方はものすごいロマンチックで、劇的で、うわ泣けるって感じで、すげぇな、と思った。

 

 本の中ではもうちょいいろいろ説明がある。なんで俺たち日本人が天皇の「おことば」に感情的なレベルでしか反応できなかったのか、それは明仁天皇自身が自分の考える天皇としての役目、「国民の思いに寄り添う」って仕事をあまりにもちゃんとこなし過ぎて、その「感情労働」がプロフェッショナル過ぎて、国民が天皇と自分たちの繋がりを感情って次元で捉えることに慣れ切ってしまってたってこと、つまり言っちまえばそれが伏線になって、天皇がひとりの個人、理性を持ったひとりの「人間」として放った言葉、「意見」を「人間」として受け止められなかった、エモーションでしかキャッチできなかったんだ、みたいな、かなり逆説がかった説明がされてる。それは天皇のせいってわけじゃないけど、でも天皇の「スマイル0円」はプロ過ぎた、天皇はそれを天皇としての役目だと自分のアタマで考えて、決意して、何十年もガチでやり続けてきたけど、それが仇になったな、自分の首を絞めたな、国民を「人間」じゃなくしちまったな、みたいな。思ったよりも国民はヤワだったな、みたいな。意志がないぜ。魂がないぜ。的な。

 

 つまりそれは結局、俺たち国民は天皇をひとりの「人間」として見られなかった、自分でモノを考え自分なりの意見を持ってる、意見を言えるひとつの人格として扱えなかった、要は生前退位のご意向を天皇のただの泣き言ってことにしちまった、猿は人間を人間と思えない、自分たちと同じ猿としか思えない、人間たる天皇を猿に貶めちまった、みたいな。この不敬、このディスリスペクト、みたいな。

 

 生前退位の1代限りの特例法。その制定について著者は言う。

 

(…)何よりこの法律は、明仁天皇の提言がただ、「天皇、お疲れさまでした」という国民の「共感」、即ち「感情」水準で受け止められたことを法の名の許に公式なものとしてしまった。明仁天皇の「考え」を「法」を以て否定したのである。なんと心ない法であることか。

 こうして明仁天皇のパブリックの形成に関与する「個人」としての彼は国民の総意によって消去されたのである。彼が表出しようとした「個人」は「私人の感情」として葬られた、というより私たちが葬ったのである。

 

 だから、私たちは一人の天皇を象徴的に殺した、とさえ言える。殺した、という言い方は物騒だが、しかし一人の老人の生涯をかけて考えた、自らのあり方に対する「ことば」を正確に受け止めず、退かせるのは、ただ引導を渡したに等しい。

 

エモ過ぎるわ

 自分の言葉が、「思い」が届かなかった、孤独な天皇。その構図。――死ぬほどドラマチックで、要は著者がこの本で言ってるのは「俺らもっとアタマを使おうぜ、感情だけでいかないようにしようや」ってことで、なのにこの天皇観はちょっとエモ過ぎる。感情を揺さぶり過ぎる。泣け過ぎる。

 

 そういう意味じゃこの本は失敗してる。明仁天皇が「人間」としてアタマをしぼって天皇の役割を考えた結果「感情労働」がそれなんだってことに行き着いた、その逆説、そんでそのスマイル0円的「感情労働」の実行の結果国民にはアタマがなくなった、脊髄反射の感情しか持てなくなった、その逆説、そういうのと同じように、この本も、マジでいろいろ考えて書いた結果エモーショナルになり過ぎた、読者を感情の次元で揺さぶることにしかならなくなっちまった、みたいな。つまり明仁天皇と同じ失敗をしてる、天皇をなぞってる、やっちまった、みたいな。

 

 そうやって、幾重にも入り組んで「感情的」な本で、――いやもしかしたら別に入り組んでなんかなくて、つまり単純に、身もふたもなく、この本は明仁天皇を演じてて、ある意味明仁天皇そのもので、つまり一種のプレイ、天皇ごっこで、で、そんで、この本を読んで孤独な天皇に感情移入しちまった読者、天皇じゃない俺ら読者は、さてどうしたもんかね、みたいな。いや参ったね、みたいな。

 

 あるいはあれか、この国でたったひとりの「人間」、たったひとりのまともなアタマの、天皇を降りた「彼」、「彼」に極限まで感情移入して、し切って、「彼」になり切って、「彼」にあやかる、「彼」のように「人間」になる、みたいな、そういう作戦か? 「彼」と一体化することで俺たちもアタマを手に入れよう、「人間」になろう、的な、そういう裏技で俺たちも猿から脱却しようぜ、みたいな? 

 

「彼」が死ぬその日までに、俺たちは「人間」になれるかな? あのとき「人間」のあんたを殺してすいませんって、「人間」として謝れるかな? とかなんとか。