くそったれのジャクソン

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ラノベの新人賞の下読みバイトをやったときの話

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 昔書いたラノベ。本文とは関係なし。

 

 何年か前、23歳のとき、ちょっと縁があってライトノベルの新人賞の下読みをやった。ふと思い出して、そのときのことをちょっと書いてみた。

 

条件

・選考段階…1次選考

・担当作品数…10作品

・バイト代…2万円

・期限…1カ月ぐらい

 

 だいたいこんな条件だった。時給換算だと別段割のいいバイトってわけじゃなかった。まぁその頃はもう大学を出て働いてたから別に金はどうでも良くて、単純にちょっと面白そうと思って引き受けただけだった。

 

段ボールでドサッ

「やるよ」と答えて数日後、段ボールに原稿10本が詰められてドサッと家に送られてきた。編集者からは「10本のうち2、3作品を2次選考に推薦しろ」って指示だった。

 

 とりあえず読み始めた。

 全部読んだ。

 

 この世で1番すごいラノベ。本文とは関係なし。

 

評価シート記入

 メールで「評価シート」のファイルが送られてきた。「これに記入しやがれ」的な。

 

 一般文芸の新人賞だとあんま無いと思うけど、ラノベの新人賞は大抵どこも「評価シート」ってモノがあって、選考終了後、各応募者に送られてくる。要はその作品のイイとこ、悪いとこ、各評価基準で10点中何点、ABC評価でどれ、みたいなのがざっと書かれてて、今後の参考にしてください、みたいな。希望者には全員に評価シートを送るって出版社、レーベルもあるし、1次選考通過者、2次選考通過者だけに送る、頼まれてないけど送る、みたいなトコもある。

 

 その評価シートを書いた。評価基準が5個あって、各10点満点の配分で、つまり計50点の中で点数をつけるって流れだった。それプラス、自由記入欄に数百字でイイとこ、改善点、みたいなのを書いた。

 

 正直点数づけは適当だった。点数自体に深い意味は無くて、イイと思った作品から順番に高得点をつけた、って感じで、要は点数自体は後付けだった。まぁそれは多分誰でも大抵そんなもんだと思う。5、6個の「基準」なんてもんに当てはめて小説を読む、評価するなんて普通に考えて無理で、無理と分かっててそれでも一応客観的っぽい感じを出すためにそういう「基準」を紙の上で設けてるだけであって、だから評価シートの中で多少当てになるのは自由記述欄、そのコメントぐらいじゃねぇかな、と思う。

 

 あぁでも、下読みの自分が書いたその評価シートが直接応募者に送られたかは分からない。2次選考以降に進んだ作品にはそこの各段階でも評価シートが書かれてただろうし、1次で落選したヒトにも、僕が書いた評価シートをそのまま、じゃなくて編集者とかが「手直し」したうえで送ってたのかもしれない。分からん。

 

選び切れねぇ

 10本読んで、「2次選考に上げてもいい」と思うのは6本ぐらいあった。そっから2つか3つに絞ろうとして、結局それができなくて4本を編集者に推薦した。「多いわ」って返信が来て、まぁでもそれで終わりだった。絞り直せとは言われなかった。

 

 後日1次選考通過作の発表、リストを見ると僕が推薦しなかった作品もあって、だから単純に下読みの推薦とか評価をそのまま真に受けてるわけじゃないらしかった。そっから2次選考までの間にもう1工程、何かがあるらしかった。まぁ当然そのへんは各新人賞によって違うとは思うけど。いや単純に、ド素人の僕が下読みだからそういう「ワンクッション」をそのときは編集者の裁量で挟んだのかもしれないけど。

 

死ぬほど良かった1本

 絶対新人賞獲ってほしい、これマジで出版してほしいわと思ったのは1本だった。評価シートに満点近い点をつけて編集者に送り返した。

 その作品は2次選考で落ちてた。かなり悔しかった。おいマジかよ、みたいな。

 

 ラノベっぽくはない、けど、んなこと言えばどのジャンルの賞に送ったって「らしくない」小説で、でも本当にイイと思った。若い女と男、恋人どうしのふたりの話で、女がお弁当屋さんでお惣菜買ったり男がバンドやっててプロ目指してレコード会社にデモテープ送って軽い詐欺にあったり、とかそういうしょぼい日常が描かれてて、でもどうもその男は実在しない、女が片想いの弁当屋さんのあんちゃんをモデルにこしらえた妄想らしくて、けどその一方でむしろ女の方が幻だった的な感じも出してて、だけど、ならその妄想を、夢を見てるのは誰なんだ、ってかそもそもこれを喋ってる語り手は誰なんだ、その女じゃないのか、その男でもないのか、的なこともイマイチ判然としなくて、ねじ曲がって奇形化した叙述トリックみたいな感じになってて、そこになんか不治の病的なモノ、「難病もの」的な要素も絡んできて、ぶっちゃけよく分かんねぇけど、でも本当にイイ、感動する小説だと思った。あれがラノベとして世の中に出たら本当に痛快だと思った。その新人賞のレーベルはたまに「変なラノベ」を出す、みたいな感じのトコだったけど、でもそういう「変なラノベ」ってカテゴリーとも違う、なんというか、「誰が読むのか分からない小説」って感じで、だからそういう意味じゃラノベとしては致命的で、だから2次選考であっさり落とされたのもまぁそりゃそうかって感じで、だけど、「誰が読むのか分からない」からこそ、この世の全員に読ませたい、そういう小説だった。

 

 今でもたまにその小説とその作者の名前で検索をして、そんでヒットしなくて、でもどっかで書いてりゃいいな、とか思う。あのヒトの書いたモノをもっかい読みたい。もっと読みたい。

 

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昔書いたラノベ、の挿絵。ryugaさんってイラストレーターが描いてくれた。

ryuga. - pixiv

基本どれも良かった

 その1本は別格として、けどそれ以外も基本悪くなかった。「読んでて結構面白い」or「尖って刺さるトコが作中にひとつかふたつはある」みたいな感じで、だからそういう意味じゃ割のイイ、退屈しないバイトだった。

 で、僕が読んで1次選考を通過した作品は全部2次で落ちてた。上記の最高の1本以外は、まぁ落ちてもそんなに「マジかよ」って感じではなかったけど、でもやっぱちょっと悔しい気持ちはした。やっぱ1回でも読むと、そういうふうに「関わり」を持つと情が湧くもんなんだな、と思った。

 

食いぶち

 僕の場合は単発、ある意味偶然で1回その下読みをやっただけだけど、何回もそういう下読みバイトをするヒトも中にはいるらしい。大学の頃、文芸評論家の教授が言ってて、純文学の新人賞の下読みとかは、まだ芽が出てなくて食えない作家や批評家のある種の「セーフティーネット」、つまり出版社がそういう売れないモノ書きを養うために下読みの仕事をあてがってる、って面もある、的なことを言ってて、だからその教授が言うには結構金額的にもそこそこ割りのいいバイト、ではあるらしい。文学の新人賞って制度にはそういう経済構造、つまり応募者だけじゃなく、若いモノ書きに対する当座の「メシの種」、出版社による「公共事業」って側面もある、とかなんとか、みたいな、いやそういう主旨の話じゃなかったかな。分からん。忘れた。

 

結論

 あの小説、また読みてぇ。選考が終わって、原稿はまた段ボールに詰めて出版社に送り返したけど、あの小説、こっそりコピーしとけば良かった。違反だろうがなんだろうが手元に残しとけば良かった。なんであのときの自分はそうしなかったんだ? どうせあの小説は賞を獲る、デビューする、この先幾らでもあのヒトの小説を読める、なんて、高をくくってたのか? Fuck‼ やっちまってるわ。コンビニでコピーしなかった自分も。あれを落とした出版社も。